聖女の横顔 舟越保武2019年02月05日 19:14

 にわかに厚い灰色の雲に覆われた空から、突然遠くの雷鳴とともに激しい雨が降り出す。
古い石造りの教会の回廊に囲まれた中庭にも、雨が周囲の音をかき消して大地をたたきつけるように降りしぶく。
 雨でなかば白く霞んだ中庭の向こうの回廊に、一人の若い修道女が中庭に顔を向けて静かに立ち尽くしている。顔のふちをぴったりと覆った白いヴェールと、その上にゆったりとかけられている黒い布の下にのぞくその横顔は清楚で優雅な美しさをたたえている。額からすらりとした鼻、やさしい口元、くっきりとした顎のライン、くぼんだ目元、気品のある美しい顔立ちなのに、表情の少ない顔は、瞳の奥に悲しみを宿しているようにも見える。
 突然の驟雨はまた唐突に上がり、回廊の上の夏の午後の青い空には七色の虹がかかった。そこには、修道女の姿はもうなかった。あたりには中庭の緑の梢の先から滴る水の音だけが聞こえていた。

 以前たまたま耳にしたラジオの朗読番組の中で、とても強く印象に残った作品がある。番組の中では、舟越保武著の「巨岩と花びら」よりと紹介された。後日、書籍を購入して読んだが、ページにすると3ページほどのエッセイである。著者の舟越保武(1912-2002)氏は著名な彫刻家(私が朗読を聞いた数十年前にはその事を知らなかったのですが)であり、それを知ってみると、女性の横顔をあたかも彫像に触れるかのように、その輪郭を美しく表現しているのがうなずける。今でもその美しい情景が目の前に浮かぶような素敵な朗読番組だった。

* 上記の文章は舟越氏の著作の引用ではなく、その朗読番組から受けた私自身のイメージです。
** 写真は、舟越保武氏の作品。釧路市の中心にある幣舞橋の欄干の上に飾られている「四季の像」のうちの春の像。エッセイの内容とは直接関係ありません。

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