天の河地の河 パキスタン 12019年02月17日 12:54

 夕暮れ時のバザールは、人であふれている。道路ぎわに並べた木の板の上に野菜や果物を並べて売っている。ピラミッドのようにきれいな四角錐に積み上げたオレンジ。黒ずんだ小ぶりのバナナ。ちょっと太めのきゅうりのようなズッキーニ。足下では、籠に入れられた鶏がバタバタと音をたてている。皮をむいたサトウキビを専用の特殊なナイフをクルッと回しながら手際よく一口大に切っていく男。道ばたに座り込んで物乞いをする老人。荷車をつけたロバ。埃っぽいでこぼこの道。
 通りは、商人も客もみな民族衣装のシャルワールに立派な髭をたくわえた男たちでいっぱいだ。女性の姿はほとんど見かけない。まれに見かける女性は夫らしき男性に伴われてシャルワールに大きなストールで頭を覆っている。パターン人の女性は、膝まで隠れるくらいの細かい襞のたっぷりある布をスッポリと頭からかぶって顔の前面も覆っている。よく見ると、かろうじて目のあたりだけ網の目状になっていて、中からは見えるようになっている。
 バザールの店は通りごとに同じ品物を扱ってる店が軒を並べている。たとえば、アルミのバケツやナベ、ヤカンなどを所狭しと並べた金物屋街、万華鏡を覗いているような錯覚におそわれるカラフルな布の反物を並べた生地屋さん、そして、その隣では、美しいシルクの布やアイベックスの毛のストールに囲まれて店の主人が絨毯の上にあぐらをかいてくつろいで、通りを行く人々を眺めている。皮の鞄や靴が並ぶ通りにはなめした皮の匂いが漂い、赤や黄のスパイスのパウダーが麻袋に形よく積み上げられた辺りでは様々な香辛料が混じり合って強烈な香りを放っている。店の入口はだいたい2~3メートルぐらいとどこも狭いが、奥行きのある造りになっていることが多い。

 店と店の間の影になった細い路地は、好奇心旺盛な異邦人の旅心を誘う。人ひとりがやっと通れるくらいの黒ずんだ石の壁にはさまれた足場の悪い道を進む。突き当たりを右に曲がると、そのまま真っすぐ行く道と、左手にアーチの下をくぐってカーブしている道がある。深く考えず、足の向くままに薄暗いアーチの下を歩く。前方からスパイスと焼いた肉の匂いが漂ってくる。近づくにしたがって、人声とざわめきが伝わってくる。どこから現れたのか、いつのまにかやんちゃそうな5歳ぐらいの男の子二人が後ろについてきていた。通りの奥に煙が見えたと思ったら、そこで肉を焼いていた。日本の焼き鳥を大きくしたようなもので、太くて長い金属製の串に羊の肉の塊がさしてある。おいしそうな匂いだ。その隣の店では、コロッケのような揚げ物を作っている。店のおやじが笑顔と身振りで一つ食べてみないかとすすめる。 (つづく)

コメント

_ アザラシ ― 2019年02月18日 23:03

市場の雰囲気が情感溢れるタッチで表現されていて素晴らしい‼️しかしどうして女性は市場が好きなのだろうか?今まで市場が嫌いな女性に会ったことがない❗

_ 木漏れ日 ― 2019年02月19日 12:10

アザラシさん、ありがとうございます。市場はその国や地域の文化や特徴が凝縮していて、活気があって楽しい!

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