空港ピアノ エストニア2020年04月11日 18:57



 先日、テレビのBS放送で「空港ピアノ」という番組をたまたま見た。世界のいくつかの空港に置かれている自由に弾いていいピアノにカメラが設置されていて、通りすがりの空港利用者の演奏を短いキャプションとともに紹介している番組である。今回はエストニアの首都にあるタリン空港だった。エストニアはかつてピアノの製作でも有名だったとのことで、エストニア製のグランドピアノが空港内に置かれている。

 二人連れのフランス人の中年男性が荷物を下に置いて、「ミッションインポッシブル」をサラッと連弾で弾き始めたかと思えば、姉と一緒に現れた男の子が小さな手で楽しそうに「聖者の行進」を弾いたり、20代の頃にロックバンドを組んでいたという60代のノルウェー人の弾く「ホワイトクリスマス」など、いろんな国籍の様々な年代の人々が次々に現れては、さりげなく、それでいて実に楽しそうに、譜面も見ずに豊かな調べを奏でて立ち去っていく。

 


特に印象に残ったのは、恋人と旅行中というポーランド人男性の弾くショパンの「ノクターン第20番嬰ハ短調」。最初の数小節を聴いただけでメチャメチャ上手!!次にどんな音が聴こえてくるのかとドキドキしながら、聴き惚れた。それもそのはず、演奏者の簡単な紹介が書かれたキャプションを読めば、7歳からピアノを始めてポーランドの国立音楽学校を卒業とのこと。しかし、在学中に、世界の難関コンクールの1つであるショパンコンクールで優勝した親友の演奏を聴いて、(彼には勝てない)とピアニストの道を諦めたそうだ。「まさか、自分が銀行員になるとは思ってなかったよ。でも、今でも、コンクールで優勝した親友は大切な人生の宝物だと思っている」と笑顔で語る彼の横には素敵な恋人の女性が温かいまなざしを向けて立っている。

幼少よりピアニストを目指して名門の音楽学校に入学して・・・それから銀行員になるまでの道のりにはどんなにか大きな心の葛藤があったことだろうと思う。しかし、そのように語った彼の演奏はとても優しい響きをもっていて、コンサートホールでの有名ピアニストの演奏に勝るとも劣らない音楽の豊かさを伝え、聴く者の心を幸せで満たした。

あらためて音楽っていいものだなと思って、久しぶりに私も鍵盤に指を触れた。

 

※写真は、中世の街並みが今なお残るタリンの旧市街。