アスワン2019年01月12日 00:35

 アスワンはナイル川沿いのエジプト南部の町である。観光地ではあるものの、比較的小規模の落ち着いた静かな町である。
ナイル河では、今でも伝統的な帆掛け舟ファルーカを目にすることができる。ファルーカは風を受けてジグザグに進む。褐色の肌のヌビアの青年がファルーカを巧みに操る。グレーのガラベーヤ(エジプトの民族衣装)に鮮やかなクリーム色のストールが映えて美しい。木の舵棒を足の間に挟んで立ち上がると、少し大きめのタンバリンのような太鼓を叩きながらヌビアのリズミカルな歌を陽気に歌う。
 
 トルコ石のように明るく晴れた青空と、サファイアのように深い青をたたえたナイル河。それらの青いフロアの上を、いくつものファルーカの白い帆がまるで白いドレスをまとった乙女たちのように流れるように優雅にダンスのステップを踏む。
 西岸に目をやると、リビア砂漠につながる砂の山が、午後の陽をうけてトパーズ色に輝いていた。風紋によってその表情を変える砂の大地は、さながら何気なく置いた黄金色のシルクの布のようだ。

 夕方、アブ・シンベル神殿に向かう小型飛行機の窓の下には、無人の砂の海が波打っている。人家はもちろんのこと、通りも植物も見えない。地平線の彼方まで果てしなくベージュ色の砂の大地が広がっている。西に傾いた太陽が、右前方に見える。真っ赤な太陽が西空をオレンジ色に染め、砂の大地を燃えたたたせる。すでに夜のとばりに包まれ始めている後方の砂丘はコーヒーのような濃い褐色の中に沈み、西の地平線はオレンジがかった黄金色の光に満ちている。そこに、今、まさに大きな太陽が一日の仕事を終えて横たわろうとしている。やがて、それは見る見るうちに夜の大地に飲み込まれた。あとは残照に紅に染まった雲が大地に沿うように横にたなびいていた。地上には明かり一つなく、星が手にとれそうなほど近くに見えた。

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